気弱な少女が、演劇をとおして花開いていく成長劇──。
タイトル | ひとひら |
著者 | 桐原いづみ |
レーベル | Action Comics COMIC HIGH’S BRAND |
初版発行 | 2005年9月11日 |
極度のあがり症の主人公が、演劇研究会へ
普段はそうでもないけど、緊張すると声が出なくなってしまう少女、麻井麦(あさいむぎ)が主人公です。
舞台にあがるなんてとんでもない、と言い張っていた彼女が、巻数を重ねるごとに少しづつ前に進んでいく成長譚が物語の主軸となっています。
VS 演劇部編
物語を大きく2つに分けるとしたら、第1部は、「演劇研究会と演劇部の戦い」となります。
演劇研究会代表の一ノ瀬野乃(いちのせのの)は、もともと演劇部に所属していました。意欲的に活動していた彼女でしたが、声帯麻痺であることが発覚し、満足に演劇ができない体になってしまいます。
同じ演劇部である榊美麗(さかきみれい)は、野乃の身を案じ、演劇をやめるように勧めます。しかし野乃は聞き入れません。
2人は対立し、野乃は演劇部を退部してしまいます。しかし演劇自体は続けたいため、新たに演劇研究会を創設。
主人公である麦は、ひょんなことから演劇研究会に入部。演劇部との対立に巻き込まれてしまいます。
運命の日は、文化祭当日。観客の投票による演劇勝負で優劣をつけます。敗北したほうは、廃部となる決まりで──。
新たな環境での演劇
第2部は主人公が2年生になり、違う環境での演劇生活が始まります。こちらは少し、ラブコメ要素が増えた印象を受けます。
新たな仲間たち、新たな学年の中で、麦はさらなる成長を遂げていきます。
主人公について
超逃げ腰ネガティブ系主人公というジャンルが、好きではない人は一定数いると思います。
この物語の主人公である麻井麦は、まさに逃げ腰ネガティブを擬人化したかのような少女です。少なくとも、物語序盤は。
「無理です」「辞めたい……」。そんなことばかり考えている女の子です。もっとしゃきっとせい、と突っ込みたくなることも多々あります。
しかし彼女は巻を読み進めていくと、ゆっくりですが確実に成長していきます。3歩進んで2歩下がるような、牛歩速度といっても差し支えない速度ですが、1歩づつ着実に前に進んでいくんです。
演劇研究会に入った理由も、「人の視線が恥ずかしい……。この場から逃げたい……」というシーンから、無理やり逃げ出すためでした。
作中何度も挫折を繰り返し、そのたびに麦は立ち直り伸び育っていきます。
そして物語終盤、新入生を勧誘している場面。1年生のときの麦のような、引っ込み思案な少女に対して麦は、こう笑顔で演劇部に勧誘するのです。
「きっと演劇やってて良かったって思えるから。良かったら……入りませんか?」と。
麦ちゃん、すごく成長したよね。
全体のストーリーに関して
部内での対立が、けっこう激しいです。ぎすぎすシーン(と表現すると作風に合わないかもしれませんが)がちょこちょこあります。合宿に行くたびに、これでもかというほど仲間内で言い合います。
ただ、コミカルなシーンも多々あります。4巻でやった舞台「赤ずきんの少女」は、かなり笑わせてもらいました(登場人物にとっては笑えない場面でしょうが)。
全7巻(+アンコール1巻)と、集めやすいのもいいですね。
演劇が好きな人もそうでない人も楽しめる、すばらしい作品だと思います。
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