これは小説、なのか……。
タイトル | 独創短編シリーズ 野﨑まど劇場 |
著者 | 野﨑まど |
イラストレーター | 森井しづき |
レーベル | 電撃文庫 |
初版発行 | 2012年11月10日 |
編集部の正気を疑う短編集! (本のそでにそう書いてある)
ちょっとありえない形態をした短編小説です。
電撃文庫といえば、ライトノベルのトップを走り続ける有名レーベルですね。
ライトノベルの特徴といえば、ページの合間合間にかわいらしい、もしくはかっこいいイラストが付随していることです。
今作にも、ところかしこにイラストがさし込まれています。
ただし、文章と文章の間に、ですが……。

なん、だと……。
おおげさでも誇張でもなく本当に、文を断つかのように挿絵がはさまれています。
こんな感じにイラストが入っています
舞台は西部劇。ジョンとビルが撃ち合います。第三者視点で物語は進み、2人のゾーンに巻き込まれ時間がものすごくゆっくり進んでいます。
ジョン───◦ ◦───ビル
互いに弾丸を発射した瞬間、こんな挿絵が目に飛び込んできます(──は弾道、◦は弾丸です)。さらにビルがもう一発うちます。
ジョン────◦ ◦──◦─ビル
こんな感じで、今どんな戦況なのかが丸わかりになっています。
戦いは熾烈を極め、横によけたり、回避行動は牛に阻害されたり、横でいきなりギャンブルを始めたりなどカオスのていをなしていきます(笑)。
有識者からは、こんなもん小説と呼べん、と怒られそうですね。そういった方は、この小説は読まないほうがよろしいかもしれません。
とにかくエピソードが豊富
2年半にわたって連載された15編、公式海賊本収録の1編、書下ろし3編、没ネタ5編の、計24編も入っています。たいしたボリュームです。
個人的には将棋、MST48、容疑者17万人あたりが好きです。
将棋は一見、まじめな対局解説からはじまります。
そこから飛び出すのが初手王手!
自宅から持ち出した角で、いきなり王手をかけます。反則ですが、棋士が1度は夢見る1手なので認められます。
しかし相手の”同金”で、すぐに角はとられてしまいます。当然です、と一言入れる解説がいい味出してます。
その他、王を1機増やす幻の囲い「アポロ囲い」がさく裂したり、棋士の見学に来ていた娘さんがボーリングの球を将棋盤に投げつけるなど、混沌とした対局模様が描かれています。

ありえない、からこそ興味をそそるのだ。
アイドルグループMST48は、劇場公演をやめるかどうかでもめています。客が誰一人としていないからです。
それもそのはずです。
なぜなら彼女たちは、密室で公演をしているのだから。
MSTとはみっしつのこと。観客の誰も、その部屋には入れません。
そんな中、メンバーの中にテレポーテーターがいることが発覚。MST48は無事、Mステへの出演が叶いました。
密室の部屋ごと移動したので、けっきょくは誰も彼女たちを見れないんですけどね……。

地下アイドルならぬ、密室アイドル。
容疑者17万人は、スケールのでかいお話です。
探偵が事件を解決する際、容疑者全員を1か所に集めますよね。この話でも、そうします。
しかし容疑者は17万人。収容人数がまずいです。
そこでどうしたかというと、東京ビッグサイト東ホール内に、容疑者たちをつめこめたのでした。ぎゅうぎゅうづめです。
眉をひそめる人も多いかもしれませんが……
文庫全体の文体が特殊なので、忌避する人も多いかもしれません。
そこらへんを許容できる人なら、この本は楽しめると思います。
ぜひ1度読んで、野﨑まどワールドを体験してみてはいかがでしょうか。
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