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第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 6ページ目

小説
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『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 6ページ目。


前置き



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迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


 少し昔の夢を見た。

 あれは私が中学三年生の十二月。クリスマスまであと少しの時。

 探偵育成塾ではこの時期、卒業試験という名の一斉にテストを行う。
 筆記テストのみのその試験は、受けなければ探偵育成塾の卒業が認められないというわけでもなく、ただ単純に卒業までの過程の一つという事に表向きはなっている。しかしこの試験にはあるとても重大な要素が隠れているのだ。

 それは、自分の成績が順位として表れる事。

 中学卒業とともに探偵育成塾は強制的に追い出されるので、卒業後、探偵としての道を歩むには、あらかじめ師匠となる探偵を自分で探しておかないといけない私たちにとって、この順位は重要な意味を持ってくる。

 弟子になりたい私たち探偵の卵と、弟子を取る側の探偵は、面識がない場合がほとんどだ。いきなり弟子にしてくださいと頼んだところで、承諾が得られるわけがない。弟子の不始末は師匠の責任となるので、弟子を取る側の探偵は、無能な探偵の卵はいらない。しかし、面識もないので、その弟子候補が優劣がよくわからない。 

 そこで試験の成績が生きてくるというわけである。
 地方単位で出るその試験の結果、私はかなり上位の成績を修められた。密かな自慢の一つでもある。

 師匠となる探偵の目星を、私はかなり早い段階でつけていた。

 神津匠。
 若くして国家探偵資格を取った天才。

 あまり年齢の行き過ぎたよぼよぼなおじいさんの探偵に弟子入りするのは少し気が引けたし、中年男性というのも少し抵抗があった。なので若い師匠がいいなぁ、と考えていたときに耳にしたのが、神津匠という名前だったのだ。

 気になった私は、塾の先生に、神津匠の話を訊こうとしたのだが、そのたびいつも、“ああ、あの人はやめたほうが”とか“別の師匠にしたほうが身のためだよ”とか“あいつはやめとけ”とかそんな要領の得ない回答ばかりだった。

 それでもなんとか訊き出した情報によると、神津匠は功績はすばらしいが態度があまりよくないということ、現在の所弟子は一人ということ、積極的に弟子をとる人物ではないということ、弟子候補が来てもほとんど相手にせずに追い返す事がほとんどだということだけだった。

 面白そうだ、と正直思った。

 弟子をあまりとらない、これは裏を返せば弟子になれれば天才と謳われた探偵に認められたことになる。自分の卒業試験の成績に誇りを持っていた私には、弟子にとってもらう自信があった。

 そんなわけで中学卒業を間近に控えたとある日曜日、制服姿で神津探偵事務所の前に来た私は、物怖じしつつも、事務所の戸を開けたのだった。

 部屋に入って私が一番最初に見入ったのが、魔法少女のコスプレをしてステッキを振り回して踊っていたいろはで、それがいろはとの出会いのエピソードであるのだが、それはまた別の話。

 部屋にいた師匠と対面した私は、弟子にしてください、と懇願しようとしたのだが名乗る前に、弟子はいらないから帰れ、とすぐに追い返されそうになった。

 けれど、いろはが私にすぐに懐いたこと、最近いろはの話し相手がいれば俺が楽になれると師匠が考え始めていたこと、私が何とか名前だけは教えたら“『いろは歌』と『天地(あめつち)の詞(ことば)』で丁度いいじゃん”、という意味不明な理由で納得され、なぜか弟子入りに成功したのである。
 私の成績が何の意味もなさなかったのは、密かに傷ついた。


 どこかで金切り声のような高い声がして、朝の静寂を打ち破った。

 続いて私の上に覆いかぶさっていた布団が横にずれ、肌に寒い冷気が刺す。どたどたと走り去る音、さらにドアがバンっと開け放たれる音が聞こえてきた。

 誰? いろは?

「んっ……」
 眠たい頭を持ち上げて身体を起こす。隣にいるはずのいろはは、そこにはいなかった。
「いろは? トイレ?」
 まだ覚醒しきれていない頭を何とか働かし、部屋の気配を探る。──誰もいない、か。
いろははこの部屋を出て行った? なぜ? 

 じわりじわりと嫌な予感が駆け巡る。さっきの声、あれは悲鳴だったのでは? それを聞いたいろはが、一瞬で目を覚まし悲鳴のした方に駆けていったのではないか。

 浴衣を着直し、スリッパを履いて顔だけ部屋から出し、廊下の様子を窺う。人の話し声が遠くの方で、僅かながら聞こえた。あっちは、温泉のある場所だ。

 背中に、冷や汗が流れた。

 廊下に出て、温泉の方に足を向ける。歩くスピードだった歩調は、だんだんと速さを増し、スリッパでの限界速度で床を蹴った。

 早く。
 早く、いろはの所に。

 途中つんのめりそうになったので、スリッパを廊下に履き捨て、どんどんと奥に進む。宿泊客がいないので当然だが、すれ違う人はいなかった。

 違う。
 違うに決まっている。

 今まで過去三度、大きな殺人事件に直面した。三ヶ月のうちに、三度もだ。
 塾時代の友人からも、ご愁傷様、と何度も言われた。またすぐ四度目があるかもね、なんて軽口も叩かれた。まさかそんなわけない。こんな旅行の旅先で、殺人事件に遭うわけがない。違うに決まっている。きっと変な虫が出たとか、そんなとこだろう。

 転がるように階段を降り終える。目の前には、二つの扉。一つは男湯へ、もう一つは女湯へと続いている。息を整えつつ女湯の扉に手をかけた瞬間、
「いやーーーーー!」
 という女性の叫び声が中から聴こえた。

 今の声、湯女さん?

 反射的にドアを開け、脱衣所へ。相変わらず白い湯気が漂っているが、それには目もくれずダッシュでガラス戸のほうへ。中は湯気湯気で何があったのかわからない。

「どうしたんですか? 何があったんです?」
 叫ぶように訊きつつ、浴衣のまま中に入る。人の気配がする方、湯船に向かう。

 そこには五人の人間がいた。
 昨日は会った四人、湯女君(ゆなきみ)さん、白亜紀(はくねあき)さん、熱川菜草(にえがわなぐさ)さんの三人は湯船には入らず近くに座り込んでいる。煙原歌(たばはらうた)さんは湯船に浮かんでいた。──仰向けで。心臓辺りに何か刺さっているようにも見える。

 そしてもう一人、さっきまで私の隣で寝てたはずの少女が、浴衣のまま湯船に入っていた。その少女は煙原さんの顔をガン見しているだけで、ぴくりとも動かない。

「……いろは?」
 返事はない。
「……いろは?」
 やはり返事はない。

 湯女さんは下を向きつつ歌ちゃんがと泣き続けていて、熱川さんが湯女さんを労わるようにその肩に手をかけていた。湯女さんは風呂場なのに、白いゴム手袋を両手にしていた。白さんはちょっとだけ離れたところで、煙原さんの様子を窺っているようだ。

 もう一度、湯船にいる少女に呼びかける。
「……いろ──」
「星空、警察を呼べ」

 私を星空と呼んだ彼女は、睨むようにこちらを見た。いろはと同じ声色でありながら、まったく別人のようなその口調で、私に命令した。

 私は呆然と、状況を見つめる。
 彼女は、いろはではない。

 その結果から導き出せる答えを、私は認めたくなかった。
 震える唇で、私は彼女の名前を口にした。
「……にほ?」
「ああ」自分をにほと認めたその少女、五十音にほは私を睨みつつ、「殺人だ。警察を呼んでこい。あと、僕たちの隣の部屋で寝てる師匠も起こせ。……そこの三人! おめぇら、そこを動くなよ!」

 夜中、アニメを笑顔で見ていたいろはからは想像もできない語調を使い、指示を出すにほ。

 唖然として今だに動けない私に、いろはでは絶対にありえない鋭い目でこちらを睨みつけつつにほは、
「早くしろ!」
 と威圧してくる。

 息を飲んだ私は、震える足を押さえつつ脱衣所へ。そのまま廊下まで走り出した。


前置き

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