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第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 5ページ目

小説
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『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 5ページ目。


前置き



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迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


 さすがに師匠と同じ部屋というわけはなく、一つの部屋に師匠、もう一つの部屋に私といろはが泊まる運びとなった。

 立地場所のせいか、あらかじめたいした料理は出せない、と仲居さんから聞いていたので、期待はあまりしてなかったけれど、思ったより豪勢な食事で安心した。

 食事を運んできてくれた仲居さんの話によると、今日の宿泊客は、私たちと、もう一組しかいないらしい。もう一組というのはようするに、白さんと湯女さんと煙原さんと熱川さんの四人だろう。夏休みの始まる前のこの時期にしても、ここまで客がいないのは稀有らしい。

 それからもう一つ、こちらはどうでもいいが、隣の部屋で一人の師匠は、何と中居さんたちにナンパを仕掛けているらしい。中居さんが教えてくれた。……聞かなかったことにしよう。どうせ全部失敗に終わるだろうし、今頃酒カッ喰らって不貞寝でもしているのではあるまいか。

 時刻は現在、夜中の一時。

 特に特徴のない和室。カーテンによって窓は遮られて、外の様子はまったくわからない。テーブルは立てた状態で端っこに避けられ、中央には布団が二組、仲良く敷かれている。

 私は普段、零時には布団に入るので、こんな時間まで起きているのは珍しい。なぜ、こんな時間まで起きているかというと、
「ほら、始まった! 『見参! ロリッ娘ピエロちゃん!』。まさか第一話がまた生で見れるなんて!」
 というワケ。

 私たちが住んでいる所とこの宿は、いくつか県を跨いでいるので放送系列の関係で、また第一話が見れるといろはがハイテンション状態なのだ。こんな高揚中の人間が隣にいるのに、ぐっすり眠れるわけもないし、なによりいろはが私と一緒に見たがったので、仕方なしに眠い目を閉じないようにしながらこの時間まで耐えたのだった。

 風呂のときの会話のせいか、いろはの誘いを邪険にできなかったのだ。何十回も見てるんだからわざわざ今見なくてもいいじゃない、と喉まで出かかったセリフは飲み込んだ。

 浴衣姿で二人、仲良く布団の上に座って視聴していた私ではあるが、普段は寝てる時間なので、こっくりこっくりと頭が船を漕いでしまうのは仕方がないだろう。OP後のCMの段階で意識が段々薄れていったが、いろははアニメに夢中で私の様子には気付かなかったようだ。

 うつらうつらして何分か経ったとき、
「あれ?」
 といういろはの声ではっとした私は、首を左右に振って意識を回復させる。いけない、普通に寝てた。

 若干の肌寒さを感じ、ちょっとトイレ、と席を立つ。七月とはいえ少しクーラーの入った部屋で布団にも入らず薄着の浴衣で眠りこけてたら、寒くもなるものだ。

 洗面所でついでに歯磨きもし、寝る準備を整えてからいろはの横に座るのと、EDが始まるのは同時だった。やばい、ほとんど内容がわからなかった。

「いやー、やっぱ面白いね、このアニメ! ホッシーはどうだった?」
「え、えーっと、まぁまぁかな。あはは」
「にっ、寝てたくせに」

 意地悪く笑ういろはは、どうやら私が夢の世界に旅立っていたという事実に、気付いていたらしい。

「面目ない……。というかわかってたなら起こせばいいのに」
「いいんだよ。隣に居てくれれば」にこっといろはは笑って「前までは一緒にアニメを見てくれる友達、一人もいなかったからうれしいんだ。他の姉妹とは一緒に見れないからね」
「……いろは」
「さってと、そんじゃ寝ようか」

 次回予告が終わりEDカードを見終えたいろははさっとテレビの電源を落とすと、そのまますっと電気も消して顔を隠すように布団に潜ってしまった。いろはは湿っぽい話は、あまり好きではないのだ。

「おやすみ、いろは」
「おやすみ、ホッシー」

 掛け布団を被り、眠気が完全になくならないうちに睡眠に入ろう。
 …………。
 ………………。
 ……………………?
 何か視線を感じる。

 細目を開けると、いろはがこちらを見ていた。私の視線に気付いたいろはは、がばっと顔まで布団を被る。五秒ほどそのままいろはを見つめ続けていると、おそるおそるといった様子で、いろはが目元まで掛け布団をずらし、私の方に目を向けた。

「あのさホッシー。一つお願いがあるんだけど」
「なに?」
「そっちの布団で一緒に寝てもいい?」
「……なぜに?」
 予想外のお願いだった。

「聞いた話だと……というかアニメとかマンガとかだと仲良し同士は同じ布団で一緒に寝たりするでしょ? それにほら現実世界でも、林間学校とか修学旅行とかのお泊りイベントでは、同じ布団で寝るらしいよ」
「いや、そんなの、したことないけど……」
「……だめかな?」
 そんな瞳で懇願されたら、断りにくい。

 ため息を一つついてから、枕と一緒に身体を横にずらす。それを許諾の意味と理解したいろはが、自分の枕を持ってさっと私の布団に侵入してきた。いろはの左耳には、寝るときですら銀輪のイヤリングがされたままだ。

「にっ、ありがとう。ホッシー」
「はいはい、わかったからそんなに引っ付かないで。暑いでしょ」
「連れないなぁ。ここから百合百合しい展開が──」
「ないから。もう遅いんだから寝なさい」
「はぁーい」

 そう返事をしたいろはは、脅威的な速さで寝息を立て始めた。
寝つきよすぎでしょ……。
 思わず苦笑してしまう。

 だけど、ふと、考えてしまう。

 “林間学校とか修学旅行とかのお泊りイベントでは、同じ布団で就寝するらしいし”、か。

 なぜ“らしい”という推量表現なのかというと、彼女は高校だけでなく、中学校も、小学校ですら通学してないそうなのだ。当然大勢の友達と、遠出の旅行なんて経験もしていないという。

 師匠といろはの関係は、親子というわけではない。いろはが小さいとき、身寄りのなくなった彼女を師匠が引き取ったそうだ。それ以来、二人は一緒に暮らしているらしい。

 とはいえ、学校にも通学させず、事務所に引きこもらせっぱなしにしているのに、師匠が後見人としての義務を果たしているのか甚だ疑問である。あまり詳しくないのでなんとも言い難いが、そんな放任状態で、後見人の資格を取り上げられたりしないのだろうか。

 いろはを引き取る前の師匠といろはの関係とか、いろはの本当の両親の事とか、引き取る事になった経緯とか、訊きだしたいことは山ほどあるけれど、あまり立ち入って訊ける話題ではないので、詳細はまだ知らない。会ってまだ三ヶ月程の私が、質問していい類の事柄ではないだろう。いつか訊ける日がくればいいと思う。

 まぁ、いろはのとある性質のせいで、いろは自身に質問してもろくな答えは返ってこないと思うけど。
 そんな風に考えつつ、私はまどろみの世界に堕ちていったのだった。


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