スポンサーリンク

第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 4ページ目

小説
スポンサーリンク

『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 4ページ目。


前置き



スポンサーリンク

迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


「へぇー、みなさん高校二年生で、同じ同好会なんですか。私は高一です。あ、こっちのいろはは、高校には行ってないのですが、歳は私と一緒です。まぁ、精神年齢は小学生並みですが」

 身体を洗い終えた私といろはは、距離を取るのもあれなので、煙原さんと熱川さんの近くに身を沈めた。ちょうどいい湯加減であった。

 いろはは基本人見知りなのだが、わりかしすぐに警戒を解くので、人付き合いに苦労はあまりない。現に今いろはは、熱川さんの隣に座って、彼女の肌をつんつん触っている。流石にちょっと馴れ馴れしすぎないか、と思わなくもない。

 熱川さんの話によれば、彼女たちは四人でこの旅館に泊まりに来ているそうだ。他の二人が散歩に行ってしまったのですることがなくなり、せっかくなので風呂にまた入りに来たのだとか。──あんまり大きな声で言えないが、彼女たちは身分を大学生と偽って宿泊しているそうな。まぁ、高校生だけだと問題があるからかもしれない。聞かなかったことにしよう。

 その他の二人っていうのは、さっき会った白さんと湯女さんかな。湯女さんが“歌ちゃん”という単語を口にしていたし。

その話を振ってみると、
「なんだ! あいつらもう帰ってきたのかよ!」
 煙原さんが、やたら大きな声で反応した。

 そういえば玄関前で、“歌の名前は聞きたくなかった”とか“早く仲直りすればいいのに”とか、そんな会話を白さんと湯女さんがしていたのを思い出す。どうやら煙原さんと白さん、喧嘩中らしい。

 少し興味のある話題ではあったが、この人相手にその話を振ってもろくな返事はもらえなそうだし、正直まだ煙原さんに話しかけるのは若干の勇気がいるので、私は口を開かなかったのだが、
「煙原のお姉ちゃん、白のお姉さんと喧嘩中なの?」
 いろはにとっては、そうでもないらしい。人見知りの警戒を解いたいろはは、訊きにくい事でも結構ずばずば質問するやつなのである。

「まぁな! 俺ら四人同じ同好会に入ってるってのは、さっき菜草に聞いたろ? そこでちと言い合いになっちまってな!」
「ふ~ん。ところで何の同好会なの?」
「映像研究会だ!」
「……映像研究会、ですか? 具体的には何をするんですか?」

 あまり聞き慣れない名前だったので、思わず私が質問してしまった。
 答えてくれたのは、熱川さん。

「…………………………録画したドラマやアニメやCMとかをみんなで見て、ここではこういう技術が使われているとか、ここではこんな工夫がなされているとか、そういった技法面について研究する同好会だったらしいよ。会が作られた当初はね」
「今は違うんですか?」
「…………………………そうねぇ。三年生は会員ゼロ。新入会員もゼロ。いるのは私たち四人だけで、ちゃんとやる気のあるのは、アニメの研究してる白さんくらいだから、私たちが入る前みたいに活気があるわけじゃないわね」
「今じゃ、録画したドラマ見てみんなでがやがや駄弁ってるだけだかんな! ったく、それなのに亜紀のやつ、あんなつまんない事でムキになりやがって!」

 白さんの名前が亜紀だったなと思いつつ、私は質問を続けた。
「何があったんです?」
「……『見参(けんざん)! ロリッ娘(こ)ピエロちゃん!』っていうアニメ、知ってるか?」
「知ってるよ! この間始まったばかりの深夜アニメでしょ! リアルタイムで見たもん! 面白かったんだよっ!」

 アニメの話になると元気が二倍になるいろはが、回答した。私には何だかわからなかったが、いろはのセリフから、七月に始まったばかりの新アニメなんだと窺える。そのうちいろはに、視聴を強制される日が来るかもしれない。

「そう、それだよ! んでな、問題なのはBパートの終盤なんだが……」
「お風呂のシーン!」
「……よくわかるな、お前」
「録画したやつ、もう十回は見たから!」

 いろはは、録画したアニメを最低十回はリピートして見るのが日課だそうだ。高校にも行かずに何やってんだよ、と突っ込んだのは一度や二度ではない。

「でもその入浴シーン……」いろははなぜかトーンダウンして、「無念なことに、ゆげゆげでピエロちゃんの裸体を拝めなかった。がっくし」
 どうやら規制が入って、この温泉みたいなゆげ補正がなされてしまったらしい。
 それが喧嘩と関係あるのだろうか?

「そう、それだよ! 亜紀のやつが録画したそのアニメ、部室に持ってきたんでみんなで見てな! まっしろしろな入浴場面で亜紀が本気で意気消沈してたから、つい言っちまったんだよ! しょせん深夜アニメなんてこんなもんだろ、ってな! あんまり深い意味を込めたわけじゃなかったんだが、亜紀は馬鹿にされたと思ったんだかえらく怒り出して、口論になっちまったってわけだ!」

 それを聞いてある出来事を思い出した。いつだったかいろはが、とあるアニメをえらく勧めてきたので、仕方なく一緒に視聴したのだ。しかし私にはあまり感性が合わないアニメだったので、欠伸しながらどこが面白いの? と軽く疑問を呈したら、発売日に新作ゲームが買えなかったときのような淀んだ視線を私に向けた事があったのだ。あの時のいろはは、怒りこそしなかったがとても悲しそうな両目をしていたので、私はそれ以来、ことアニメに関しては特に慎重にコメントするようにしている。どこに地雷があるかわからないので。

 それと似たような事件が、白さんと煙原さんの間にもあったのか。
「でもそれなら、よくみんなで旅行に出かけようなんて思いましたね?」
「…………………………前々から四人で旅行しようねって話が出てたから、煙原さんと白さんの仲直りを兼ねて温泉行きましょうってなって。ちょうど喧嘩の原因のゆげ補正にちなんだ温泉の話を、いつだったか白さんが話してたからそこでいいんじゃないって」
「あ!?」
 いろはがいきなり、立ち上がりながら奇声を発した。

「どうしたの、いろは?」
「トイレ!!」

 いろははばしゃばしゃと湯を跳ねつつ湯船から出ると、脱兎の速さで脱衣所の方に消えていった。一度、どすっという音ときゃっと悲鳴がしたのでまたこけたようだ。

「はぁー、何やってんだか。すいません、話の途中であれなんですけど、私も失礼しますね」
 熱川さんと煙原さんに断りを入れてから、私はいろはに続くように温泉を後にした。


前置き

コメント