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第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 2ページ目

小説
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『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 2ページ目。


前置き



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迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


 その山間にある宿は、正直に表現してなんとも地味な出で立ちであった。古風というほど歴史は感じないが、かといって現代的というにも新しいわけでもない、あえて褒めるところを挙げるなら、風景を壊さない自然な色の建物、という点か。

「ねぇ、ホントに今更なんだけどさ、いろは。あなた何でこんなところに来たがったわけ? どうしても一度は行って見たいっ! って叫ぶからしぶしぶOKしたけどさ」
 師匠が車を停めている作業を横目に、あらかじめ宿の玄関前で下車していた私は、いろはにそう訊いてみた。

 そもそもこの旅行は、私たちが事件を、特に殺人事件を立て続けに解決した慰労の意味を込めて、珍しく師匠がどこか連れてってやると誘いかけて来たのである。

『ツンデレ祭り殺人事件』
『ヤンデレ教会殺人事件』
『俺の嫁誘拐殺人事件』

 今思い出しても戦慄するこれからの事件。よく解決に導けたものだ、と素直に思う。
 たしかに労ってくれるというなら嬉しいけれども、私としては旅行より、探偵の何たるかを教えてほしいところではあった。

 が、いろはがはしゃぎまくったのでそれを進言できる空気ではなかったのだ。まぁ、別にいろはと旅行するのがいやなわけでもないけれど。

「ふっふーん、それはね」いろははもったいつけつつ、「実はこの宿の温泉には、他にはないとある特色があるんだよ。まぁ、見てのお・楽・し・み」
「ふーん……? その温泉の特色とやらと“二次元(あなたの趣味)”と何か関係あるの? あんまり結びつかないんだけど」

 アニメや漫画の舞台になった場所を訪れることを、聖地巡礼とかいうらしいけれど、この口ぶりからすると今回はそういうわけではないらしい。

 というかどうでもいいけれど、最近の私は“聖地巡礼”だの“ツンデレ”だの“ヤンデレ”だの“俺の嫁”だの、いらない知識をやたら身につけてしまっている気がしてならない。かなりいろはに毒され始めている。

「こんばんは」
 いろはと話していると、横から声をかけられた。口調からすると女性のようだ。そちらに目を向ける。
 青いジャージ姿で茶髪のその女の人は、私より若干背が高く、七月だというのに手にはなぜか白い手袋がはめられていた。

 私は彼女に会釈しつつ、
「こんばんは、えーっと、どちら様でしょうか?」
「私は湯女君(ゆなきみ)。そこの宿の宿泊客よ。あなたたちもそうでしょ? ──こんばんは」
 湯女さんは腰を曲げて、いつの間にか私の後ろに移動したいろはに向けて挨拶をした。

 いろはは少しだけ人見知りするケがあり、初対面の人とはいつもこんな感じなのだ。見慣れた光景とはいえ、人の腰を掴んで隠れるその動作は、正直どうかと思う。一応年齢的には高校一年生のはずなのに。

「こ、こここ、こんばんは……」
 蚊の鳴くような声で返事をするいろは。はいこんばんは、と笑顔で返してくれた湯女さんは、間違いなくいろはを小学生と勘違いしているとみた。

「あなたたち、姉妹? こんな山の奥まで二人で来たの?」
「あ、いえ、姉妹というわけではないです。それとあそこの車の中に──」
 と湯女さんの背後の駐車場を指差して、あと一人連れがいると教えようとしたときだった。

「──もう一人いま──」
「きゃっ!!」

 突然湯女さんは悲鳴をあげると、その場に蹲ってしまった。あまりの一瞬の出来事に私はぽかーんとしてしまい、すぐに動けなかった。

 え、何? 私何かしちゃった?

 すぐに行動に出たのはいろはだった。
 さっきまで私の影に隠れていたくせに、すぐに私の背から出てくると、蹲って震えている湯女さんに近づいて、大丈夫? と声をかけた。
 はっとした私も、すぐにいろはに倣う。

「大丈夫ですか? 気分悪いですか?」
「ええ、……平気」

 どうみても平気には、見えない。宿の光に照らされた彼女の顔は、真っ青だ。

 宿の中まで連れて行ったほうがいいか迷っていると、
「ちょっと、ユナクン! 大丈夫!?」
 近くからそんな声が聞こえてきた。たったったと走って近づいてくる足音。私は顔を上げてその足音の主を見た。

 こちらも湯女さんと同じ青いジャージを着ている。背はあまり高くなく、髪は短めの黒。泣き黒子が、右目の下にあった。ぱっと見は男の人に見えたけど、こちらも女性のようだ。

 彼女は湯女さんの正面で腰を屈めて、
「おーい、生きてる?」
「……生きてます。それから、私の名前は……湯女君(きみ)。ユナクンでは、ありません……」
「ふぅー、まぁ、このやりとりができるなら大丈夫そうね。──えーっと、君たちは、どちらさん?」
「私は、天土星空。そっちのは五十音いろはです」
「ふむふむ、なるほどね。私はこの子の連れ。ごめんね、びっくりしたでしょ」
「え、ええ、まぁ」
「ちょっと特殊な病気持ちでね。ときどきこんなんなっちゃうのよ」

 私は白亜紀(はくねあき)よろしく、と自己紹介した彼女は、立てる? と湯女さんの方に手をグーにして出す。湯女さんはそれに捕まってゆっくり立ち上がった。

 湯女さんは深呼吸を何度かしてから、
「ごめんね。もう大丈夫。三人ともありがとう」
 私、白さん、いつの間にか私の後ろに隠れたいろはにそれぞれ視線を向け、にっこりと微笑んだ。
 うん、どうやら落ち着いたらしい。

「まったく、ユナクンがどんどん先に行っちゃうから、こういうことになるんだよ。反省しなさい」
「だって亜紀ちゃん、歩くの遅いんだもの。それから私の名前は湯女君です」
「散歩なんだから、ゆっくり自然を楽しみながら歩けばいいじゃん」
「そんなこと言って、本当は歌ちゃんと同じ部屋にいたくないだけじゃないの?」
「どうかな。まぁ、その名前が聞きたくなかったのは否定しないけど」
「もう、さっさと仲直りすれば良いのに」

 湯女さんの言葉に答えず、白さんは肩をすくめると、私といろはに顔を向けて、
「君たちはこの宿に泊まりにきたの? 人のこと言えないけど、ずいぶん物好きだね。やっぱり、あれ。風呂目当て?」
「えーっと……」
 いろはに返事を求めると、彼女は私の後ろに隠れつつも、うんうん、と首を縦に振っていた。
「そっか。まぁ、ケガしないように気をつけてな」

 ケガ?

 その部分に首を傾げているうちに、白さんはさっさと宿の中に引き上げてしまった。湯女さんも、じゃあまたね、と言い残し白さんの後に続く。

「誰だ、今のは」
 駐車を終えて、やっと私たちの元にやってきた師匠。やけに時間がかかったなと思ったら、どうやらタバコを吸っていたようだ。ちなみに師匠は、いつでも外ではスーツ姿である。

「あの宿に泊まっている人たちみたいですよ」
「ふん、こんな辺境の場所にまでご苦労なことで。わざわざこんなところに来たがる奴の気がしれん」
「……私たちも今からその宿に泊まるんですけどね」


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