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第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 10ページ目

小説
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『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 10ページ目。


前置き

あとがき



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迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


 五人で部屋を出て、玄関の方に向かう。師匠はおそらくそこにいるはずだ。事の顛末を報告しなければ。警察もそろそろやってくるので、そのまま白さんを引き渡すつもりだ。

 前を歩く三人を見つつ、私は隣にいるいろはに話しかけた。
「せっかくの旅行が散々になっちゃったね」

 白さんが犯行を認めた瞬間、にほは目を瞑って天を仰ぐ動作をした。ちょっとしてにほが目を開けると、そこにはいろはに戻った少女がいたのである。

 いろはに戻ったその女の子は、眼鏡をすぐに外すと、テーブルの上に置いてあった銀の輪のイヤリングを左耳につけた。眼鏡は眼鏡ケースに大切そうにしまい、カバンに入れる。

 このように彼女は、いろはの人格時はイヤリングを、にほの人格時は眼鏡をかけるのだ。理由は本人にもわからないらしい。ただ自然な流れで、装着しないと変な気分になって来るそうだ。

 にほだったときの記憶をいろはは持っていないので、事件の全てをいろはに説明した後、私たちは部屋を出たのであった。

「そういえば、どうしてにほは、白さんが自殺じゃなくて、自首で決着をつけようとしていることがわかったんだろう? 可能性としては、自殺でケリをつける場合もありえたと思うんだけど」

 私の小さな疑問にいろははイヤリングを触りつつ、
「これ以上白さんが、湯女さんと熱川さんを傷つけるようなことはない、とにほは判断したんじゃないかな。昨日の夜、先端恐怖症のせいでその場で蹲って震えていた湯女さんに、白さんは走って近寄って、大丈夫? って声かけてたし。風呂に行く私たちにケガしないようにって注意を促してもくれたし。白さんはきっと、心の底は優しいんだと思うよ。今回は、人を殺しちゃったけどね。もし白さんまで死んじゃったら、残された二人はきっと再起不能になるくらい心を痛めちゃうと思うんだ。白さんはそれは望まない。にほはきっと、それが本能的にわかってたんだよ」

 確かににほは、言動は粗暴なところがあるが、人の機微に敏感な部分がある。

「夜中の事なんだけどさぁ」いろはは、若干元気なさげに「ホッシーと一緒にアニメ見たじゃん? 『見参! ロリッ娘ピエロちゃん!』ってやつ」
「ああ、うん。私はほとんど見てなかったけど……」
「そのときのことなんだけど……」

 そういえば私が寝惚けていたときいろはの、あれ? というセリフではっと目が覚めたんだった。

「被害者と加害者のお姉ちゃん達が喧嘩した原因になったお風呂のシーン、昨日見たやつだと湯気の補正がかなり薄かったんだ」
「え、なんで?」
「放送局によっては湯気の補正が厳しいところと緩いところがあるんだ。昨日、というか時間的には今日だけど、そのとき見た『見参! ロリッ娘ピエロちゃん!』には湯気補正があんまりされてなかったんだぁ……」

 尻すぼみで小さくなっていくいろはの声。私には彼女が言いたい事がわかる。

 白さんと煙原さんの喧嘩の原因。湯気が濃い事を嘆いた白さんに、煙原さんが一言口にしてしまったというその出来事。
 もし白さんが視聴録画したときの『見参! ロリッ娘ピエロちゃん!』の湯気補正の度合いが、私たちが見たとき程度の薄いレベルのものだったら、こんな事件は起きなかったのかもしれない。

 とはいえ、それはいくら考えても仕方がない。起きてしまったことは、もう取り戻せない。

 私はいろはの背中をぽんと叩く。いろはは私の事を見上げる。
「次は、ちゃんとした旅行にしようね」
「え!? また一緒に旅行してくれるの!?」
「当然よ」

 慰安旅行に来たのに、殺人事件に巻き込まれて全然休めた気がしなかった。これじゃあ、あんまりだ。師匠を何とか説得して、いつになるかわからないけれど、またみんなでどこかに行きたい。

 とはいえ、いろはに旅先を任せるとまたやっかいな事件に出遭う気がしてならないので、今度は普通の観光地にしよう。
 いろはが変な旅行先を指定しないうちにそう進言しなければ、と私は強く思ったのであった。
                                ゆげ補正殺人事件 終


あらすじ

 探偵が国家資格として認められている世界。

 探偵の卵である五十音(ごじゅういん)いろはと天)土星空(あまつちほしぞら)は、山奥にある宿を訪れた。
 そこの温泉には特色があり、それは、浴場が異常に湯気まみれで湯気が入浴者の身体を包み込む様な変な動きをする、という事だった。

 その温泉はゆげ補正温泉と一部で呼ばれ、アニメ好きのいろはが前から行きたい場所であった。
 実際に風呂場に行ってみると確かに真っ白で、星空を驚かせる。

 二人は宿で、女子高生四人に会う。
 彼女達の内二人は喧嘩中で、その仲直りを兼ねてこの温泉に足を運んだそうだ。

 ところが翌日、彼女達の中の一人が、湯船で刺殺される。

 五十音いろはは多重人格で、人格の変わるスイッチは他殺体を目撃する事。死体を見たいろはは、五十音にほとなり捜査を開始。

 五十音いろはは他殺体以外では、五十音にほに変化しない。よってこの事件を殺人事件と断定したにほは、被害者と一緒に入浴していた女子高生三人の中に犯人がいると判断。彼女達に聞き込みをする。

 しかしにほは、少し事情聴取をしただけで後は警察に任せると言い放つ。
 いつもは意地でも犯人を挙げようとするにほが、途中で捜査を打ち切ることに不信を抱いた星空は、どういうことか、とにほを問い詰める。

 犯人を言い当てる必要はない、と突き放すにほに星空は、このままいろはの身体を乗っ取るつもりか、と呟いてしまう。

 そのセリフを受けてにほは、する気ではなかった解決パートに挑む。

 にほは事件が起こる前までの情報で最初から犯人の目星をつけていた。容疑者三人の中で、一人は先端恐怖症、一人は視力と聴力が劣っていて、あの湯気だらけの場で人を刺殺するのは不可能とわかっていたのである。

 犯人は、犯人でしか犯行をし得ない状況で、殺人を犯した。最初から犯人は自首するつもりだった。にほはそれに気付いていたのだ。
 いろはに戻った少女に星空は、また旅行に行こうね、と約束するのであった。


前置き

あとがき

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