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第17回電撃小説大賞 4次落ち原稿晒し 1ページ目

小説
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『第17回電撃大賞4次落ち作品』迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件 1ページ目。


前置き



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迷宮入り探偵五十音姉妹の推理草子 ゆげ補正殺人事件


 割引シールの貼られたコンビニのおにぎりをよくそんなにおいしそうに食べられるものだ、と感心と呆れを混ぜた視線を私──天土星空(あまつちほしぞら)は、隣に座っている少女に向けた。

 その少女は、とても小柄な体型だ。髪は黒く短かめに切り揃えられ、左耳に銀輪のイヤリングをしている。いつもは大きく見開かれている両眼は、美味の食品を頬いっぱいに詰め込んでいるせいか今は若干細めだ。

 ほっぺに白い粒が二粒ほどついているが、本人は気付いていないのかまったく意に介した様子は見られない。服は黒のブラウスを身に纏い、深緑のミニスカートと黒のニーソックスを履いていた。

 童顔といえば聞こえはいいが、この幼い顔で本当に私と同じ歳なのかと疑ったのは一度ではない。今でも思う。彼女は本当に十五歳なのかと。

 そんな彼女の名前は、五十音(ごじゅうおん)いろは、という。

「これ、おいしいねぇ。ホッシーも食べればいいのに」
「車の中で物食べると気持ち悪くなるからいらない。というか、よくそんな得体のしれないもの食べられるわね……」

 いろはの食べているのはおにぎりだが、中身は“謎”だ。どういう意味かというと、普通なら“梅干”とか“おかか”とか表記されるべきはずの場所に、“謎”と書いてあるのだった。どうやらコンビニの店長の話によると、ランダムで中身が入っているらしい。さすが田舎のローカルコンビニわけわからん、と購入時は思ったが、口には出さなかった。

 ちなみにホッシーとは私のあだ名だ。そんな呼び方をするのはいろはだけだけど。

「はっ、今のホッシーのセリフ、昔どっかのアニメキャラが似た様な事言っていたような。ちょっと待って今思い出すから」
「別に思い出さなくていいし、そんなことよりほっぺのお弁当。さっきから気になってしょうがないんだけど」
 私が人差し指で白米を取ってやると、いろはは、
「あ、取ってくれたの。ありがとう──ぱくっ」
「……人の許可なく、指にしゃぶりつくのはどうかと思うんだけど……?」

 いろはは外見だけでなく、中身も小学生並みだ。高校にも行かずアニメやマンガ、ゲームに人生を捧げているのだから、ある意味小学生未満かも。こんなんだから他の探偵仲間から、こいつに事件を任せても何一つ解決できないという皮肉を込めて、“迷宮入り探偵”などと不名誉な二つ名をつけられてしまうのだ。

 とはいえ彼女が無能でないという事実を、私は過去の体験から認知しているのだけれど。

「お前ら、もうすぐ着くはずだから降りる準備しとけよ」
 と不機嫌そうな声が、運転席から聞こえてきた。

 後部座席に座る私の目の前、運転席に座っているのは、私といろはにとって探偵の師匠にあたる神津匠(こうづたくみ)だ。年齢は二十九歳。

 三十歳で取れれば天才と賞賛される国家探偵資格をわずか二十二歳で取得した超天才。若いながらも現実に起きた殺人をいくつも解決に導いている。ルックスだけ見れば二十代前半にしか見えず凛々しい顔立ちなので、ファンクラブの一つや二つあってもおかしくないが、中身はあまり褒められた物ではない。

 すぐに暴力を振るうとか裏では犯罪に関与してるとかそういうことではないが、私たちを弟子と本当に認識しているのかとても怪しいところだ。実際、彼に弟子としてとってもらってから三ヶ月、何一つ探偵のなんたるかを教わっていない。

 放任主義といえば耳触りはいいが、師匠が弟子に三ヶ月間も基礎のきの字も教えようとしないのは異様だ。弟子の不始末は師匠の責任、が探偵の基本なので、一度弟子と認めたら朝起きてから夜寝るまでみっちり指導するのが、本来の師匠のあり方なのに。

 ……とはいえ、この数ヶ月の間に何件も殺人事件に巻き込まれている私といろはも、そうとう異様ではあるのだけれど。

 ため息を一つ心の中でつきつつ、
「今から行く宿、本当にこんな山奥にあるんですか、師匠? もう暗くて周りの景色よく見えないし、さっきから同じ所ぐるぐる回っているようにしか見えないんですけど?」
「知らん。あるんじゃねぇの。なんせ──」
「このわたしが言うんだから間違いないよ!」
 師匠のセリフを遮って、両手を腰に当て堂々と胸を張るいろは。その自信はいったいどこからくるんだか。

「そう自信満々に豪語されてもねぇ、いろは。あなた本当に道調べてきたわけ? 時々思い出したように、“そこ右”とか“そこ左”とか指示してるけど、まさか適当に指さしてるわけじゃないわよね?」
「そんなわけないじゃん! 今から行くところは、アニメ通の中じゃそこそこ有名な場所なんだから! 二次元関係でわたしに隙はないんだよ!」

 確かにいろはが持つそっち方面の知識は、無駄に底知らずだ。執念に満ちているといってもいい。アニメの視聴数は週に三十越えが当たり前だし、ゲームも徹夜で購入したこともあるとか。神津探偵事務所の隣の小部屋に、倒れたら圧死するんじゃないかと心配するほど、アニメDVDとマンガの山があるのを最初に見たときはめまいがした。

 さっき師匠が、もうすぐ着くはずだから、と口にしたのも、そのまま十五分くらい曲がらずにいけば着く、といういろはの発言に基づいたものだ。本当に大丈夫なのだろうか?

 そんな私の心配が顔に出たのか、
「大丈夫だって! わたし頭悪いけど、二次元で天才だから!」
 いろはが何か口に出すたびに、あまり考えないようにしていた不安がどんどん膨れ上がってきた。いや、出発した時から心許ない気はしていたのだ。けれどいろはが、絶対に大丈夫、とあまりにも確信に満ちた風に笑っていたので、まぁ平気かな、などと考えてしまったのがいけなかったのか。

 このまま宿が見つからなければ、最悪車内で一泊という流れになってしまう。女子高生としては、車の中で一夜を過ごすというのは、あまり歓迎したくないイベントなのだけれど。
 借りた物は平気で返し忘れる。そんなずぼらないろはに道案内を任せたのはやはり失敗だったのか。

 しかしそんな心労は杞憂に終わったようだった。
「あれだな」
 まだ少し遠いが、宿らしき建物が視界に入ってきた。どうやら野宿はしなくてすみそうだ。
 私が小さくため息をつくのと、いろはが満足げに頷いたのはほぼ同時だった。


 ここで探偵についての説明を少し。

 私たち探偵は、依頼主から依頼を受けそれを速やかに解決に導く事、が主な仕事だ。
 依頼主は、個人単位から企業単位、組織単位と多岐にわたる。警察から協力を要請されることもある。

 その責任は重大だ。うっかり情報をマスコミに漏らそうものなら、たった一度だけで探偵としての職は失ったも同義なのだそうだ。昔そういった事例で探偵が一人干されたとか。そのせいかどうかはわからないけれど、探偵というのは基本、あまり表舞台に顔を出さない。有名になれば依頼は増えるけれど、余計な敵を増やすから。

 突発的な事件を解決するのも、探偵の仕事だったりする。

 例えば殺人事件。
 旅先の近くで人殺しがあったりしたときに、現場保存や目撃者探しなど、警察とは別に捜査する権限がある程度認められているのだ。事件解決後、国からその仕事の重要度によって報奨金が支給される。

 といろいろ説明しているけど、私もいろはも、実はまだ正式には探偵ではなかったりする。

 探偵と胸を張って堂々と仕事できるのは、国家探偵資格を取得した一部の人間だけ。さっきもちょっと出てきたけど、これは三十歳で取れたらすごい資格なのだ。まだ十五歳の私は、その資格に挑戦すらできない。

 法律事務所に雇われている力弱き弁護士を、居候弁護士、略してイソベンとかいうそうだが、それと似たような立場なのだ。私たちの場合は、居候探偵、イソタンといった具合。

 探偵育成塾が各都道府県に必ず一つは存在する。これは、十歳になれば入る資格がある比較的緩い塾なのだが、これが探偵になるための第一歩といっても過言ではない。実際私も通っていた。

 ここで探偵の基礎の基礎を学ぶ。とはいえ、小学生や中学生相手に教授できる事柄などたかがしれているので、あまり高度な技術は教わらない。検死の仕方とか、指紋の採取の方法とか、そういう実践で使えそうな技能を期待していた私にとっては、正直がっかりものであった。

 中学卒業前に強制卒業となったあとは、自分自身の手で師匠となる探偵に弟子入りを志願し了承を得なければ、探偵としての道はそこで途絶えてしまう。国がいちいち親切に斡旋してくれるわけではない。これが探偵になるための一番苦労する工程だ。

 弟子の不始末は師匠の責任となる探偵社会では、師匠になって下さいはい了解、とそんな簡単に師弟関係は築けないのである。師匠となる探偵側にとっては、無能な探偵の卵をおいそれと懐に置いとくわけにはいかないのだ。卵の中から自分に破滅をもたらす生き物が生まれてこないとも限らないので。

 紆余曲折を経て、私は今の師匠の元で修行するに至ったのだが、長くなってきたので詳しい話はもう少し後でにしよう。


前置き

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