あらゆるものを鑑定できる目を持つ女性と、さえない週刊雑誌記者。
2人が挑む、人の死なないミステリー。
タイトル | 万能鑑定士Qの事件簿1 |
著者 | 松岡圭祐 |
発行人 | 井上伸一郎 |
出版社 | 角川文庫 |
初版発行 | 2010年4月25日 |
タイトル | 万能鑑定士Qの事件簿2 |
著者 | 松岡圭祐 |
発行人 | 井上伸一郎 |
出版社 | 角川文庫 |
初版発行 | 2010年4月25日 |
人気作家が描く、殺人なきミステリー
著者である松岡圭祐(まつおかけいすけ)さんは、『千里眼』シリーズや『催眠』シリーズでおなじみの人気作家です。
1997年、デビュー作である催眠がミリオンヒット。以降、数多くのヒット作を生み出す売れっ子作家さんであります。
2010年から発刊が始まった本シリーズ、『万能鑑定士Qの事件簿』はとてつもなくハイペースで発売されたシリーズものでした。
第1部『万能鑑定士Qの事件簿』全12巻、第2部『万能鑑定士Qの推理劇』4巻、短編集2巻、『万能鑑定士Qの探偵譚』、『万能鑑定士Qの謎解き』、姉妹シリーズ『特等乗務員αの難事件』全5巻、ついでにマンガ版の発売などなど。
およそ3年間で、これほどの数を発刊しています。とんでもなく速筆です。
おそろしく速い筆。私じゃなきゃ発売日見逃してたわ。
そして2016年、シリーズ完結編である『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの<叫び>』をもって、Qシリーズは無事終了となりました。
本作はその第1段目、1巻と2巻で上下巻扱いの作品となります。以降は1冊完結型のシリーズとなりますが、記念すべき最初の事件は2冊で1つの事件を解決します。
主人公は学生時代、落ちこぼれだった
万能鑑定士を生業としている女性、凜田莉子(りんだりこ)は、あらゆる物品を鑑定できる知識と目を有しています。
たとえば、ヨーロッパ絵画の鑑定を持ち込んだ依頼人が、「スペクトル・フォト・メタでも微妙と出た。君にはわからないだろうが」と、若い女性である莉子を侮った発言をします。
即座に莉子は、「採取した有機物質にレーザー光線をあてて反応をみたわけですか」と返します。さらに「画材やキャンパスは当時のものと判定がでたけど、まだ疑問の余地があるから鑑定士を探しているんですね」と推理します。
絶句する依頼人に対し、莉子はこの絵画が偽物であると断定します。
理由は
- 角砂糖を数える貴婦人の指の折り方が日本式であること。
- 鏡の用途を間違えて、照明の反射鏡なのに身だしなみ用の鏡として扱っていること。
- ソーセージの切込みの入れ方が、箸でつまみやすくする日本式のやり方だったこと。
をあげ、キャンパスの方も海水に浸し、年代を偽装していることを即座に見抜きます。
無事偽物と見抜いた莉子のおかげで、依頼人は多額のお金をだまし取られずにすみました。
ふふっ、お金をだまし取られた依頼人の復讐劇でも面白いと思うけど。
このように莉子は、膨大な知識の元、万能鑑定士として活躍していくこととなるのです。
そんな彼女、学生時代はさぞ優秀な生徒だったんだろう、と思うかもしれませんが、実情はその真逆でした。
石垣島にある高校出身の莉子の成績は、5段階評価でオール1(正確には体育と音楽は3、美術は2)。教科書を見ても何も覚えられず、計算ももちろんできない。落ちこぼれ中の落ちこぼれでした。
『ミケランジェロ』が答えの美術の問題に『キリマンジャロ』と回答欄に記入するような子でした。
高校卒業したら東京に行きたい、と主張する無謀な莉子に担任は「水商売に手を染めるつもりじゃないだろうな」と心配すると、「ミネラルウォーターを売る人?」と首をかしげます。
実際に上京することになるのですが、就職面接でもその無知っぷりを遺憾なく発揮します。
ブラインドタッチはできますか、と聞かれ窓のブラインドを触りに行く。
米将軍が答えである、徳川吉宗の通称を聞かれ堂々と、暴れん坊将軍と答える始末。
どっかのマンガナビゲーター並みの知能ね。
そんな常識が足りていない莉子でしたが、とある人物と出会い、自分の持つ秘められた才能を開花させていくことになります。
もう1人、莉子の相棒として活躍することになるのが、『週刊角川』の記者、小笠原悠斗(おがさわらゆうと)です。
外見はいいけど、スーツは安物。編集長にいつもどやされているなにかとさえない男ではありますが、莉子のよきパートナーとして数々の難事件に挑むことになるのです。
そんな2人の恋模様にも、要注目でしょうか。
記念すべき最初の事件はハイパーインフレ!?
ハイパーインフレとは簡単にいうと、通貨の価値が下落し、物がまともに買えない状態のことです。
最近ではジンバブエドルが同じような状態にありました。100兆ジンバブエドルの画像をみたことある人も多いかもしれませんね。
物語は謎のシール、力士シールが東京のあちこちに張られている説明から始まります。
それがやがて日本社会を崩壊させるハイパーインフレへとつながるとは、誰が想像していたでしょうか。
チーズバーガーセット、32000円。週刊少年ジャンプ、6万円。那覇まで行くのに、312000円。
そんな秩序が壊れた日本で莉子と悠斗は、ハイパーインフレを起こした犯人を突き止めるべく行動を開始します。
果たして日本をハイパーインフレへと突き落とした1万円札の偽造はどのようにして行われたのか。
犯人の目的とは何なのか。
先の見えない事件の全容を、2人は追い続けることとなるのです。
キャッチフレーズに偽りなし
テレビCMで見たことがある人も多いかもしれません。
本作のキャッチフレーズは、「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」です。
あらゆる知識にたけている莉子の含蓄は、読んでいて本当に面白い。
ガードレールの判別から、卵の見分け方、はては絵画の鑑定まで、莉子の見識は底が知れません。
また、おっちょこちょいで、間違った知識もたびたび披露するけどどこか憎めない悠斗とのやり取りも微笑ましいです。
ミステリーは読んでみたいけど、えぐい殺人ものはちょっと……と躊躇している人は、本作でミステリーデビューするのもいいかもしれません。
殺人がないのに面白いなんて……。すごいと思うわ。
もちろん重度のミステリーファンでも楽しめますよ。
ぜひ1度手に取って、莉子の知識の深さに感心するのも一興かと思います。
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